空気の冷たい北摂地方の郊外、我が家は周囲を似たような建売が近接していて、築25年以上。日当たりは悪い。今まで母と二人暮しで庭のことはすべてお任せだったが、最近は母も、私に猫の額ほどの、庭のごく一部、眉毛のすみっこほどを分けてくれる気になったらしい。ずっと何かを植えたかった私にはとてもうれしいことだった。

(何を植えよう何を植えよう何を植えよう)
今までローズマリーだのモロヘイヤだの我が家の家計を助ける野菜やハーブは植えた経験があったが、私の一番やりたいことと言うわけではなかった。ただ、スペースの一部を分けてもらうには、家族への利益還元が保障されなければ土地を融通されないと言う、国家予算の問題のような壁があったのが事実だ。
これからはネギでもない、パセリでもない、胃の中に入らない、目を純粋に楽しませてくれるものを植えよう。そうだ、一番好きな花を植えよう。そして逡巡の中浮かんだのがバラだった。
バラ・・・花の女王。綺麗なくせに棘のある、虫のつきやすい、病気になりやすい、土作りのめんどくさい薫り高い花である。あこがれ度も高ければ、敷居も思い切り高い。おまけに苗も中型で数千円と高い。
しかし、どうせやるならばバラだ、と私の覚悟は決まっていった。今まで抑圧されてきた庭への情熱の迸りを注ぎ込める対象は、組み付いて戦い甲斐のある花のはずだった。不足はない。
この燃えるような闘志と自信はただ、自室の窓辺に置いてあるコンシンネを3年間枯らさずに細々と大きくしてきたことだけだった。だが、図々しくも私はそれから本屋に行き、バラの本を立ち読みしだした。
地元の書店では私と同じように陽の当たらない狭い庭でもなんとか園芸を楽しもうとする人々のために書かれた案内書、バラを育ててみたい人々のために書かれた入門書、バラを眺めていたいだけの人のための、ため息が出てしまうような写真の羅列の書籍が溢れていた。
特にバラの本は園芸書の中でも種類が多いようだ。十年ほど前の蘭ブームを思い出す。あのころ友人の勧めで私も蘭の鉢(小型のファレノプシス)を買ったが、母に無断で株分けされ、すっかり気分を害した私は「もうこの蘭はお母さんが好きにしてよ」と育児放棄した前科がある。こんなことは二度とあってはならない、と自分に言い聞かせる。
つらつら書棚を見回し吟味した結果一冊の私の『バラ・バイブルを決定する。タイトルは
「大地に薫るバラ」』副題は「ローズファーマー後藤みどり流バラ作り」草土出版、である。
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